投資全般

元本保証で高利回りを求める人の末路

世の中には、自分の資産運用について「元本保証」を大前提とする人が一定の割合で存在する。

人には皆それぞれの考えや事情、置かれた立場や環境がありそれ自体は別に問題はないが、
一方で日本は1990年以降のバブル崩壊後は一貫して低金利の状態が今日まで継続しており、
この様な環境下では前述の人はその低金利に甘んじるしかない。

よって大半の人は常識的にその範囲内で我慢する訳であるが、その様な環境下でも元本保証で
高利回りを追い求める人もまた、少なからず存在する。

低金利時に元本保証という条件で必要以上に利回りを求めると、結果として違法な投資案件や
詐欺に遭う可能性が高くなる。 自ら危険な場所に行く様なものである。

そもそも「元本保証」とは何なのだろうか?

世の中には無数のリスクが存在する。

家から一歩外に踏み出せば、車に轢かれるかもしれないし建物から看板が落下して頭に当たる
かもしれない。

前から来た人に変な言い掛かりを付けられるかもしれないし、突然変な投資話を持ちかけられる
かもしれない(無いか)

この世に生きている人は毎日、その様な無数のリスクを承知し自分で予知して回避出来るものは
避けながら生活している。

その様な世の中で、自分の資産だけが一定の期間何事もなく運用され、その上増えて戻ってくる
のだ。 100%の確率で。

この様な、極めて都合の良い話しが本当にあるのだろうか。

元本保証とは極論すれば、運用組織およびそれに属する運用担当者が善意且つ法律に則り且つ
その運用が現実的であり、且つ想定外の事象が何も発生せず、運用組織が最後まで平常の場合
のみ、「結果的に」得られるという約束事でしかない。

つまり故意・過失に係わらず、どれか一つでも欠落すれば渡したお金は満額では戻っては来ない
可能性が高い。

最も一般的な預貯金であっても、それは同様である。

当該金融機関が破綻などすれば、同様にお金は満額では戻っては来ない可能性がある。

つまり「元本保証」など、当事者が言っている絵空事であり何の裏付けも無いという事である。
極論すれば元本保証ではない、通常の投資と何ら変わらない。

お手元の100万円で 8316 三井住友FG の株式を買うのと、傘下の三井住友銀行の定期預金に
預けるのとでは、最終的に行き着くリスクの本質はさほど変わらないという事である。

勿論、株式を買い資本金の一部として提供(=出資)するのと、銀行の定期預金では中身の
本質は全く異なる。

しかし運用期間中のリスクの程度の差はあるものの、極論すればどちらも会社が正常である事が
前提であり、無くなれば全額は戻っては来ない点では同じである。

実際には100万円であれば預金は保険で戻ってくる可能性はあるが、これとて同時に複数の銀行が
倒れたりした場合はどうなるかはわからない。 100%安全という訳ではない。

さて、さきほど述べた様に低金利下でも元本保証で世の中の金利と大きく乖離した高利回りを
是が非でも求める人が最後に行き着くのは、結果的に破綻するリスクの大きい事案である。

例を挙げると、10数年前に社会問題に発展した和牛商法がある。

バブル崩壊後暫くしてからだったと記憶しているが、この様なシステムを複数の牧場が採り入れて
オーナーを募集していた。

中でも栃木県にあった最大規模の安愚楽牧場は、2011年8月9日に破綻し被害者数7万人、被害総額
4,207億円という詐欺事件に発展。

この様な詐欺を起こす集団が決まって取る行動、即ち最後の方は平静を装って新たな出資者から
集めた資金で既存オーナーへの配当を支払うという自転車操業を繰り返した挙げ句、最後は破綻。

被害者は集団訴訟を起こして戦った結果、被害者の出資元本は最終的には数%程度しか返還
されなかった様である。

和牛商法は特定商品預託法に基づいたシステムで、オーナーは同社に売買・飼養委託契約金を
払い込み、繁殖母牛や子牛の飼養委託契約を締結する。

契約期間中に子牛が生まれた場合や子牛が大人の牛に成長した場合には、買取り代金が支払われる
というものである。

同社は生まれたばかりの子牛に出資するものなど様々なコースを用意し、配当や買取り金の支払と
元本を保証するシステムで消費者に宣伝し、出資金を集めていた。

当時はこの商法に関する宣伝がテレビや雑誌といったメディアを通して広く行われ、私も投資雑誌
の特集で目にした事がある。初めて目にした時は、確か 5%を少し超える位の利回りであった。

当時は現在よりもう少し金利が上だったとはいえ、5%超の利回りが元本保証で得られるのである。

投資未経験の人は、何と言っても元本保証だし、それに取り寄せたパンフレットも綺麗だし、
問い合わせに応じてくれた牧場の人も親切で感じが良い、おまけに牛肉までタダで貰えるという
事で、あまり深く考えず簡単に飛びついてしまう。

元本保証に拘るあまり、それが仇となって逆に一般的な投資案件よりも遙かに高リスクの事案に
手を出す事となってしまう。

しかし投資経験のある人は、この雑誌広告やパンフレットを前に少なくとも次の様な事を考える
のではないか。

 ・不特定多数の一般消費者に出資を求めているが大丈夫か
 ・永続可能(買取り金以上の利益が安定して出る)な事業か
 ・母牛・子牛が死んだり健康に育たないリスクへの対応
 ・個体の重量(肉の量)・肉の質(等級)の差違への対応
 ・牛肉相場への対応方法

非上場企業が縁故ではなく不特定多数の一般消費者に何らかの出資を募る場合、結果的に不幸な
結果に終わるケースが多いため注意が必要である。

また、非上場企業は会社の経営状態の開示が上場企業に比べて限られその分リスクも大きくなる
ので、出資するのであればより慎重に時間を掛けて丁寧に調査する必要がある。

牛を大量且つ安定的に飼育し最終的に肉として出荷するまでの工程には、伝染病の発生や餌の高騰、
天候自然の影響、人件費、地代、機械償却、建物の老朽化など様々なリスクが存在する。

それらにどう対応するつもりなのかも、確認が必要である。

そして投資を行っている者にとっては常識であるが、牛肉にも毎日の相場があり価格は変動する。

2年なら2年後に予め決めた値段で買い取るというのであれば、会社は先物でリスクをヘッジして
おく等の対応が必要となる。

こういった対応の内容についても確認が必要となる。

もし何も手を打っていないのであれば、その時点でおかしいと気付く事も出来るはずである。

本当に出資するなら、こういった事項を一つ一つ確認する事が求められる。
元本保証でその上牛肉がオマケでもらえるから、という理由で出資する事案ではないのである。


画像出所:朝日新聞デジタル

この商法の一番の問題点というか矛盾している所は、牛肉として出荷するまでの全てのリスクを
会社が負い、オーナーであるはずの出資者は何らリスクを追わない契約であるという点であろう。

その様な事は、資本主義における仕組みに照らしてあり得ない。
本来であれば、次の何れかの仕組みであるべきだったと考える。

1.畜産事業への出資
2.牛への投資

前者は牛を飼育して肉として出荷するという、畜産ビジネス自体への出資、つまり未公開である
当該株式を購入するという事である。

これはもう立派な株式投資、それもリスクの高い未公開株投資であり、途端にハードルが高くなる。

元本保証どころか、投資資金は永久に換金出来ない可能性さえある。

未公開株式は購入したら上場しない限り譲渡方法や譲渡先は非常に限られ、実現はハードルが高い。

やはり縁故等の私募となり、投資家はそれなりの資産を持つエンジェル投資家に限られて来る。
つまり、今回の様に広く一般的に募集を掛ける訳にはいかない。

そして後者は、牧場から自分が一部とはいえ牛を購入し、本当の意味での牛のオーナーとなり、
牧場は単にオーナーからの委託を受けて牛を育て、業者に卸すだけとなる。

この場合は不動産投資に例えると、牛1頭が投資マンション1棟で自分は区分1部屋のオーナーと
なるのと全く同じ事であり、牛(物件)に関するリスクは当然全てオーナーが負い、牧場は
不動産管理会社に相当する事となる。

これならある程度は一般の消費者からでも募集が可能と思われるが、マンションとは異なり
何しろ生き物であるため遙かにリスクは高く、実現に向けては法環境の整備も含めてハードルは
高く、何れにしろ元本保証とは無縁の立派な投資案件となる。

つまり、牛を育てて牛肉として出荷するという牧場としての事業のリスクとリターンを取るか、
牛という商品自体のリスクとリターンを取るかの二者択一であり、オーナーであるはずなのに
リスクは全て牧場が持つ(元本保証)というのが都合の良い、現実にはあり得ない契約なのである。

元本保証で世間の金利を大幅に上回る事案というのはどこかに本質的な矛盾を内包しており、
手を出さないのが一番であろう。

美味しい投資話は一般大衆には決して回ってこない。
超富裕層にしか回ってこない。 この事実を理解する事が重要である。

[成長株への長期投資~経済的自由人を目指して~ 記事 No.00078]

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管理人プロフィール

 Author : 圭壱

 Twitter : 圭壱@長期投資

 50代の会社員。

 2013年より日本株を対象とした

 成長株への長期投資を実践。

 投資先企業の活動を通じた社会貢献と同時に、投資

 資本の成長を目指す。 最終目標は経済的自由人。

 詳細は ---> 管理人プロフィール

保有株式の年末評価額 (単年率・累計率)

 2013年12月  1,560 万円でスタート

 ・2013年   1,567 万円 ( +0%

 ・2014年   1,923 万円 ( +23% ・ +23%

 ・2015年   2,297 万円 ( +19% ・ +47%

 ・2016年   2,695 万円 ( +17% ・ +72%

 ・2017年   4,739 万円 ( +76%+203%

 ・2018年   4,180 万円 ( ▲12%+166%

 ・2019年   5,988 万円 ( +43%+283%

 ・2020年   9,634 万円 ( +61%+517%

 ・2021年   6,549 万円 ( ▲32%+319%

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