投資全般

JIC空中分解。お上の顔色伺いながら真の投資はやはり無理

官民ファンドの運営会社である産業革新投資機構(Japan Investment Corporation:JIC)は
12月10日、田中社長以下、民間出身の取締役9名全員が辞任することを発表した。

JICはその前身となる旧産業革新機構が2009年に設立され、2016年度までに累計で100件以上の
投資を実施している。

投資先は世界のベンチャー企業やメーカー、サービス、IT、インフラ等の企業やファンドで

 ・6166 中村超硬
 ・6531 リファインバース
 ・6723 ルネサスエレクトロニクス
 ・6740 ジャパンディスプレイ

等、日本の企業にも投資してきた。

産業革新機構として9年間の活動の後、2018年9月に現在の名称に改組されたばかりである。

一体なぜ、華々しい設立から僅か3ヶ月という短い期間で官民の「民」に相当する経営者が
総退陣するという異常事態に陥ったのであろうか。

報道された内容を読むと、

JICの発足に先立ち、経産省の糟谷敏秀官房長から各代表取締役に手渡された報酬に関する書面
(固定給、短期業績連動報酬(合計最大 4,000万円)、長期業績連動報酬=キャリー)に

 ・経産相の印鑑が無い
 ・予算を担当する財務省の了解を得ていない
 ・キャリーの詳細が未定(JICの報酬委員会が設計予定)

という不手際があった。

そして取締役会でこの報酬内容が正式決議された後に、経産省は突如それを白紙撤回した。

経産省はその後、田中社長ら4名との会合を開き、

 ・取締役の報酬を最大 3,150万円に大幅に減額
 ・孫ファンドも事実上認可を必要とする

 ・「事業遂行の基本哲学」として、
   ・政策目的の達成と投資利益の最大化
   ・政府のガバナンスと現場の自由度(迅速かつ柔軟な意思決定の確保)の両立
   ・報酬に対する国民の納得感、透明性と優秀なグローバル人材の確保の両立

 ・官民ファンドの手法として、デリバティブ取引を禁止
 ・インデックス投資、不動産投資はリスクヘッジ以外は禁止

などと報酬以外にも、これまで議論してきた投資哲学に関する内容を覆したり、或いは今さら
敢えて明言する必要のない事項を改めて記載した文書を配付した。

組織を政府の強い管理下に置き、その意向に従うことを強要した内容と説明態度であった。

田中社長らがこの内容と経産省担当者の態度に強く反発し、途中退出したことで両者の溝は
遂に修復には至らず、今回の醜態に発展することになった。

 
一斉に辞任した、9名の民間出身取締役


画像出所:株式会社産業革新投資機構

  
次に、12月10日に発表された、田中社長の辞任会見文書の要約。

 ・以前より、日本の金融機能を本来の姿に戻すには資本市場の強化・育成とインベストメント
  チェーンの拡充が喫緊の課題と認識。

 ・それには、日本のエクイティ・プロバイダーを大きく力強くすることが必要だと考えていた。

 ・そうした中、経産省の「リスクマネー供給に関する研究会」への参加を要請された。
  その報告書には、下記の通り書かれていた。

  「2兆円規模で民間資金等を呼び込み、国内の大規模ファンド組成の動きにつなげる事が必要」
  「投資機関として世界に認知されるものに成長し、リスクマネー供給機能の中心的役割を担う」

 ・我々は高い国家的な目標に強い共感を覚え、この報告書を「バイブル」と呼び、 愚直にその
  実現に向かって進むことにした。

 ・そうした中、金子副社長により西海岸でのバイオ・創薬ファンド案件が動く。

 ・しかし経産省の動きは鈍く、財務省から役員報酬の協議が終了しない限り、西海岸ファンドの
  認可に係る協議には応じないと宣告された。

 ・そこで自ら財務省に出向き、ようやく認可に漕ぎ着けた。

 ・細目の議論により、これまでに経産省から伝えられた事が次々と変更され、「バイブル」と
  していた報告書が政府全体の方針ではない事が徐々に明白に。

 
 ・そして今度は、経産省が自ら我々に提示した報酬に関する批判が発生し、国内外の新規採用者の
  報酬枠などを含め、一方的に白紙撤回した。

 ・我々から報酬の水準を提示したことは一度もなく、個人的な応諾時点では報酬の話すらなかった。

 ・根本的な問題は、経産省官房長が書面で約束し取締役会が決定した役員報酬を、決議を無視して
  一方的に白紙撤回する行為自体である。

  
何という、政府のお粗末な対応であろう。

例によって省庁間の横連携の不備もあり、頼まれてもいない報酬案を一方的に提示して取締役会で
正式決議された後に政府内で「高過ぎる」と批判が出て一方的に反故にした。

全く、ガバナンスも何もあったものではない。
企業ガバナンスの強化策を打ち出し、民間企業に実践させている政府が自ら悪い手本を示している。

今回要請を受けた田中社長は、最初の研究会で配られた報告書をバイブルと仰ぎ、自身が前々より
考えていた、金融機能が持つ課題とその解決に向けて大きな志を持っていた。

質・規模ともに一流の官民ファンドに育て上げ、世界の資本市場に本格的にリスクマネーを提供する
先駆けとなりたいという気概があった。

会見では「1円でも引き受けていた」と明言している。 私は本心だと思う。

JICの持ち株比率は政府が限りなく100%であり、民間による持分割合はごく僅かである。
そしてその投資資金は、そのほとんどを財政投融資から拠出している。

 
始動した西海岸ファンドの件では、経産省の動きが遅く、見込みのある案件はスピード勝負で素早い
意思決定が求められるため、そのもどかしさを吐露している。

最終的には自らの行動で何とか承認を勝ち取ったが、本当に歯がゆい想いであったに違いない。
現実的には、官民ファンドの限界なのであろうか。

土壇場に来て、経産省はこれまで合意していたはずの孫ファンドの設立も認可制とし、関与の度合い
を強める姿勢を見せた。

こんなお上の顔色をいちいち伺う窮屈な環境では、アーリーステージ企業への本当のリスクマネーの
提供は無理だろう。

せっかく高尚な理念を掲げ、それに賛同した業界経験者が歩を進めようとした矢先に、所管省庁や
政府の稚拙な対応で台無しである。

1億円程度の報酬が高過ぎるとの批判が省内や政府から出たということであるが、外国の本格的な
ファンド運営企業の報酬は桁が違うだろう。

全く身内のムダ遣いは得意中の得意なくせに、こういう肝心な所には出し惜しみするのである。

報酬を巡る政府・省庁の幼稚な対応と、次第にお上の意向を強く意識した「官ファンド」への
変貌が嫌気され、遂に信頼修復には至らずに有能な経営者を失ってしまった。

JIC自身やビジネス業界、そして投資資金の持ち主である国民にとり非常に勿体ない事案である。
安倍政権にとって、大きな禍根を残す出来事であろう。

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管理人プロフィール

 Author : 圭壱

 Twitter : 圭壱@長期投資

 50代の会社員。

 2013年より日本株を対象とした

 成長株への長期投資を実践。

 投資先企業の活動を通じた社会貢献と同時に、投資

 資本の成長を目指す。 最終目標は経済的自由人。

 詳細は ---> 管理人プロフィール

保有株式の年末評価額 (単年率・累計率)

 2013年12月  1,560 万円でスタート

 ・2013年   1,567 万円 ( +0%

 ・2014年   1,923 万円 ( +23% ・ +23%

 ・2015年   2,297 万円 ( +19% ・ +47%

 ・2016年   2,695 万円 ( +17% ・ +72%

 ・2017年   4,739 万円 ( +76%+203%

 ・2018年   4,180 万円 ( ▲12%+166%

 ・2019年   5,988 万円 ( +43%+283%

 ・2020年   9,634 万円 ( +61%+517%

 ・2021年   6,549 万円 ( ▲32%+319%

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